-■無意識下のアフェクション
「どうしたんですか、ルカさん」
お兄ちゃんに聞こえないよう、少し声をひそめる。
瑠果さんは、あたしの部屋の奥に立っていた。
「ごめんなさい、突然。大したことじゃないんだけど、気になってたから確かめたくて」
あたし、何か悪いことしたかな? とドキドキする。
「なんですか?」
すると瑠果さんは、上目使いにあたしを見て、いたずらっぽく微笑んだ。
「マユちゃん、マヒロくんのこと、本当はあんまり好きじゃないんじゃない?」
「へ?」あたしは目をぱちくりした。何を言っているんだろう。「えっと……、そんなの、当たり前じゃないですか。はっきり言って嫌いですよ」
瑠果さんが、満面の笑みを浮かべる。「やっぱり? そうじゃないかと思ったの」
あたしは溜め息をつきながらベッドに座った。
「利用できることは利用してますけどね。そのためにご機嫌取りもします。でも、いい気になって過剰にスキンシップしてくるのがキモくて……」
「あら、嫌なことは嫌って言ったほうがいいわよ。ストレスは体にも毒だし」
「完全なるシスコンなんですよ。触るな、なんて言ったらどうなることか……」
「あ」瑠果さんは人差し指を立てた。「私に会ったのも、偵察だったんでしょう?」
「バレてましたか」あたしはぺろっと舌を出した。「お兄ちゃんなんかと付き合う女性って、一体どんな人なんだろうと思って。そしたら、マトモ……どころか、すごく素敵な人なんですもん、ルカさん。一目惚れしちゃいました」
「あら、さらりと言うのね」
「だって、あたしの気持ち、もう知ってるじゃないですか」
「まあね」
「もしルカさんがお兄ちゃんのことを好きなんだったら、どうにかして目覚めさせなきゃと思ってたんですけど、どうやら大丈夫みたいですね」
「心配ないわよ。マヒロくんにときめいたことなんて一度もないわ」
「でも、助けてくれましたよね、お兄ちゃんのこと」
「私のせいで人が死んだら気持ち悪いっていうだけのことよ」
「ああ、そうですよね」
そのとき、階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。
「あら、気持ち悪いお兄ちゃんが来たわよ。それじゃ、私は消えるわね。またしばらく、兄妹ミズイラズで楽しく暮らして」
瑠果さんは嫌味を言って、美しい微笑みをあたしに向けると、シュッと消えた。
理解者がいるって、いいものだなあ、と思った。
「マユ!!」
ノックもせずに、お兄ちゃんが飛び込んできた。
「む、む、虫が出たからやっつけてくれ!」
顔面蒼白で、あたしに助けを求める。
これがあたしのお兄ちゃん。見損なって当然だよ。
「……どこよ」
あたしは、また溜め息をついて、部屋を出た。
背後で、瑠果さんがくすっと笑った気がした。
- - - - - - - - - - - - - - - - -まだ気づいていない〈完結〉